スピン(磁化)と共役な関係にある外場は磁場であり,電気分極と共役な関係にある外場は電場である。こうした外場に対する共役な物理量の応答の測定は,物性物理の重要な研究課題である。軌道自由度はスピンと同様に低温で秩序化する(軌道秩序)が知られており,その共役な外場は一軸歪である。したがって,軌道自由度に関して一軸歪下での測定を行うことは重要な研究テーマであるが,薄膜についていくつかの測定例はあるものの,バルク結晶については測定の困難さもあって,これまでにほとんどなされていなかった。
我々は,バルク単結晶試料にピエゾ素子を用いて一軸歪を印加しながら光学反射率スペクトルを測定できるシステムを構築した(図1右下)。このシステムを用いて,130
Kで軌道秩序を起こすことが知られているBaV10O15について室温で測定を行った結果,圧縮歪と引っ張り歪で符号が反転する反射率スペクトルの変化を観測した(図1 (a)(b))。さらに,一軸歪の印加にも関わらず,反射率スペクトルの変化は等方的であること,圧縮歪による反射率スペクトルの変化が温度低下に伴うスペクトルの変化に類似していることが明らかになった,さらにb軸方向の一軸歪で最も大きなスペクトルの変化を示すこと,そのb軸方向が転移温度以上で大きな格子定数の温度変化を示す軸であることを見出した。様々な測定結果から,ピエゾ素子で印加した方向に垂直方向の(ポアソン比に基づく)歪の影響も考慮して,純粋な一軸歪による反射率変化を求めたのが図1 (c)である。
以上の実験結果は,軌道間の相互作用が歪と結合しており,転移温度以上でも温度低下とともに軌道相関が発達すると考えることによって,定性的に理解することができる。外場印加によって軌道自由度を制御できることを,バルク結晶においてはじめて示した実験結果であり,この手法が今後様々な系に対して応用されることが期待される。
図1 BaV10O15におけるbc面での一軸歪下での反射率スペクトル変化。(a) ΔRb (ΔLb)は一軸歪がb軸方向で偏光方向もb軸方向。(b) ΔRb (ΔLc)は一軸歪がb軸方向で偏光方向はc軸方向。
(c)はポアソン比も考慮して、純粋なb軸方向の一軸歪によるa,b,c偏光方向の反射率スペクトル変化。
T. Saiki, S. Ohkubo, K. Funahashi, T. Yamazaki, T. Kajita, and T. Katsufuji,
“ Change in the optical spectrum of BaV10O15 with applied uniaxial strain”,
Phys. Rev. B 101, 121111(R) (2020).
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