コランダム構造のTi2O3はTi3+ (3d 1)を含み、低温では絶縁体であるが、500K付近で緩やかに金属へ相転移する。この相転移は、Ti-Tiの二量体において結合方向に伸びた結合軌道に2個の電子が入る絶縁体相から、結合方向に垂直に広がった軌道に電子が入る金属相への変化と考えられている。これまでに光学反射率測定も行われており、光学伝導度における1eV付近のピークが金属相では低エネルギー側にシフトし、3eV付近のピークは強度が減少することが知られている。またTiの一部をVやMgイオンで置換すると低温まで金属相が支配的になることも明らかになっている。
我々はこのTi2O3に室温でパルスレーザー光を照射して絶縁体相から金属相への光誘起相転移が起こるかを調べた。その結果、パルス照射前と照射後の反射率スペクトルの差は、室温で絶縁体相であるTi2O3と室温で金属相であるMg0.18Ti1.82O3の差スペクトルにほぼ等しく、光誘起相転移が起こっていることが明らかになった。また、光学伝導度スペクトルをローレンツ関数でフィッティングし、そのパラメータを動かすことによってパルス照射前後のスペクトルの差をフィッティングした結果、1eVのピークは光照射によって低エネルギー側にシフトする一方、3eVのピークはピーク幅が広がることが明らかになった。さらにすでに金属相にあるMg0.18Ti1.82O3にパルスレーザーを照射したところ、光誘起によって1eVのピークのシフトは起こる一方、3eVのピークはMgドーピングによってすでに抑制されており、光照射によっても変化しないことが明らかになった。(図1)
このような結果は、Ti2O3における絶縁体相から金属相への変化が、フェルミ面付近の低エネルギーの電子状態の連続的な変化とTi-Tiの結合状態の急激な変化の2つによって成り立っていることを示唆している。
図1 Ti3O5(左)とMg0.18Ti1.82O3(右)の時間差0.3 ps, 1ps,10 psにおける光誘起スペクトル変化
K. Akimoto, K. Ikeda, T. Yoshida, K. Takasu, T. Izaki, T. Okuda, and T.
Katsufuji,
“Photoinduced dynamics of Ti2O3”,
Phys. Rev. B 110, 155158 (2024).
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