一次相転移のダイナミクスの一つに核生成-核成長過程がある。これは気液相転移や固液相転移などで観測されるものであり,相の体積が時間に対して特徴的な依存性を示す。一方,モット転移,磁気相転移,電荷整列相転移などの電子相転移において,一次相転移を示す例も数多く知られているが,それが核生成-核成長のダイナミクスを示す例はほとんど知られていない。これは,核生成-核成長過程において,2つの相の共存が相の間の界面エネルギーによって支配されていることが本質であるのに対して,固体中の2相共存状態おいては,界面エネルギーよりもむしろドメイン内のバルクの弾性エネルギーが支配的であるためであると考えられている。
我々はBaV10O15の軌道秩序相転移が,結晶学的なtwin構造を作らない直方晶から直方晶の一次相転移であって弾性エネルギーの寄与が小さいことに注目し,その相転移のダイナミクスを測定した。その結果,Vの一部をTiで置換して転移温度を下げたBaV9.85Ti0.15O15において,電気抵抗率,磁化率,歪測定の結果から,急冷による過冷却状態の実現と,そこからの軌道整列相転移への相変化ダイナミクスを観測することに成功した(図2
(a))。また,その時間依存性が3次元の核生成-核成長ダイナミクスを記述するAvramiの式に従うことを見出した(図2 (b))。さらにそうしたダイナミクスの温度依存性から,軌道秩序相と軌道無秩序相の間の界面エネルギーを定量的に求めることに成功した(図2
(c))。
この物質において,実験結果から得られた界面エネルギーが原子一個あたり約90Kと比較的大きいのは,この系が軌道とスピンの2つの自由度を持っているためであると考えられる。1つの自由度しかない系では秩序相と無秩序相の間の界面エネルギーは高次の項になって非常に小さくなるが,2つの自由度が結合していることに由来する秩序相と無秩序相の間の界面エネルギーの存在を示すことができる。すなわち,本実験結果は,スピンと軌道が結合した物質の特徴的な振る舞いであることが明らかになった。
図2 (a) BaV9.85Ti0.15O15における歪の時間依存性。(b) 上記の実験結果のAvramiの式によるフィッテイング結果 (c) 変態時間tの温度依存性とフィッティング。
T Katsufuji, T Kajita, S Yano, Y Katayama, K Ueno,
“Nucleation and growth of orbital ordering”,
Nat. Commun. 11, 2324 (2020).
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