Ba3Nb5O15はtetragonal tungsten bronze (TTB)構造という結晶構造をとり、NbO6八面体がc軸方向にはまっすぐに繋がり、ab面内ではジグザグにつながっている(図1左)。Nbの平均価数は4.8価であり、Nb1個あたり0.2個の4d電子が存在する。この物質は金属的伝導を示し、c軸方向がab面内よりも1桁程度電気抵抗の低い1次元的な伝導を示すことが知られている。一方、Baを同じ2価のSrで置換したBa3-xSrxNb5O15はx = 2付近で金属から絶縁体に転移することが知られている。これは、酸素が五角形に取り囲んだサイトにSrが入ると、結晶構造に乱れを生じるためであると考えられている。
我々はSrの代わりにEuで置換したBa3-xEuxNb5O15の単結晶をフローティングゾーン法によって作製し、その物性を調べた。その結果、Euは2価となりS = 7/2のスピンを持つこと、Srの場合と同様にx = 2.2付近で金属から絶縁体に転移すること、さらにEuの局在スピンとNbの4d軌道の伝導電子と結合に由来する負の磁気抵抗を示すことを見出した。この負の磁気抵抗はxを増やして金属絶縁体転移に近づくにつれて大きくなり、最大でρ(0)
/ ρ(H) 〜 103に達する巨大な負の磁気抵抗を示す(図1右)。こうした金属絶縁体転移近傍における巨大な負の磁気抵抗は、Eu置換に伴う乱れとEuスピンの揺らぎによる散乱によって臨界的に局在化した電子が、磁場によってEuスピンの揺らぎが抑制されることによって遍歴的になることに由来すると考えられる。
Ba3Nb5O15はBaをEu以外の希土類で置換することも可能であり、この時希土類は3価となる。巨大磁気抵抗以外にも、Nbの4d電子と希土類の4fモーメントの結合に由来する新奇な物性が期待される系である。
図1 (左):tetragonal tungsten bronze (TTB)構造の結晶構造
(右):Ba3-xEuxNb5O15単結晶の磁気抵抗効果
K. Iwamoto, W. Sekino, S. Ito, Y. Katayama, K. Ueno, and T. Katsufuji,
“Large Negative Magnetoresistance in Ba3−xEuxNb5O15”,
J. Phys. Soc. Jpn. 91, 033702 (2022).
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