|
Ba3Ta5O15はtetragonal tungsten bronze (TTB)構造をとり、Taの平均価数が4.8価で5d電子がTaあたり0.2個存在して金属となる。Baを希土類Rで置換する（Ba3-xRxTa5O15）と、多くの場合希土類は3価となる。この置換によってTaの5d 電子数はむしろ減少するが、これは希土類置換によってカチオンが欠損するからであると考えられている。さらにTa 5d 軌道の遍歴電子と希土類4f 軌道局在スピンとの結合により、小さな正の磁気抵抗を示す。しかし希土類がEuの場合は4f 7でhalf-filledとなる2価が安定となり、x=1.7付近で金属から絶縁体へと転移すること、転移点近傍でTa 5d 電子とEuの4f スピンとの間の結合に由来するρ(0)/ρ(H)~8程度の大きな負の磁気抵抗を起こすことが知られている。
希土類がYbの場合、2価が4f 14の閉殻であることから3価よりも安定であることが期待される。しかし常圧下で合成されるバルクの酸化物において、Ybが2価となる物質はこれまでに知られていなかった。我々はBa3-xYbxTa5O15を0≤x≤1.2の範囲で作製し、xが小さいところではYbは2価（J=0）であるが、xが大きくなると3価 (J=7/2) に価数変化することを磁化測定と比熱測定の結果から明らかにした。このことは、伝導帯であるTaの5d 軌道が非常に浅い位置にあるため、xが小さい場合はフェルミエネルギーがYbの2価よりも高い位置に来るが、xが大きくなって（カチオン欠損によって）フェルミエネルギーが下がると相対的にYbの3価の方が安定になるためであると考えられる。
さらにBa3-xYbxTa5O15の磁気抵抗を測定したところ、低磁場では正の磁気抵抗を示すが、それより高磁場では負の磁気抵抗を示すことを見出した。これらの結果が磁場方向に依存しないことから、Ybのスピンに依存した磁気抵抗であると考えられる。この複数の磁気抵抗の存在は、Ybのスピンの整列に伴ってTaのバンドがup
spinとdown spinで分裂することに加えて、Ybの軌道そのものが伝導に寄与してそれが磁場によって変化すること、すなわち重い電子系に類似した磁気抵抗効果に由来すると考えられる。
図1 左：Ba3-xYbxTa5O15の2Kにおける磁化の磁場依存性
右：Ba3-xYbxTa5O15の2Kにおける電気抵抗率の磁場依存性
H. Takei, S. Ito, Y. Katayama, K. Ueno, H. Kuwahara, T. Katsufuji
“Valence Change of Yb in Transition Metal Oxides Ba3−xYbxTa5O15”,
J. Phys. Soc. Jpn. 93, 104703 (2024). |