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有機物や遷移金属化合物では、電荷秩序や軌道秩序に伴う相転移において、過冷却状態からの遅いダイナミクスが観測されることがある。このような遅いダイナミクスの起源としては、核生成・成長過程やガラス的挙動が提案されているが、どの長さスケールの不均一性が遅いダイナミクスを支配しているかを実験的に示すことは難しいことが知られている。
本研究では、BaV10-xTixO15(x = 0.15)における軌道無秩序相(OD)と軌道秩序相(OO)の二相共存状態のスローダイナミクスに着目した。この系では、スローダイナミクス下で温度と待機時間を制御することで両相の体積比を変化させることができる。さらに、OO相とOD相ではネール温度がそれぞれ25
Kと15 Kで異なるため、磁化率測定により各相の寄与を区別できるという特徴を利用した。
測定の結果、二相共存状態では磁化率に二つのピークが現れ、OO相の体積分率が減少するにつれて、そのネール温度が低温側へシフトすることが分かった。一方、OD相のネール温度はほとんどシフトしないことが分かった。この結果は、OO相がナノメートルサイズのクラスターとして存在し、そのサイズが小さくなることで磁気秩序が抑制されることを示唆する。また、このサイズは核生成・成長理論から見積もられる臨界核サイズとも整合的である。一方、OD相は結晶全体に連結して存在するため、体積分率が小さくなっても長距離秩序が維持され、ネール温度のシフトが起こらないと考えられる。
以上より、本研究は磁化率測定を用いて二相共存状態の特徴的な長さスケールを評価する手法を提案し、BaV10-xTixO15における遅いダイナミクスがナノスケールの核生成・成長過程に支配されていることを明らかにした。
図3 左上:BaV10-xTixO15(x = 0.15)の磁化率の時間依存性。左下:急冷した場合(軌道無秩序相、青色)と徐冷した場合(軌道秩序相、赤色)の昇温過程での磁化率の温度依存性 右:81Kで様々な待機時間twで止めた後に急冷後に昇温で測定した磁化率の温度微分(χmeas, 赤~青色)と、軌道秩序相と軌道無秩序相の磁化率の温度微分を両相の体積比で足したもの(χcalc, 黒色)の比較。15Kのピークが軌道無秩序相のネール温度のピーク、25Kのピークが軌道秩序相のネール温度のピーク。
T. Katsufuji, H. Takei and Y. Shiraishi,
“Magnetic properties of the two-phase coexisting state caused by orbital
ordering in BaV10−xTixO15(x=0.15)”,
Phys. Rev. B 113, L020410 (2026).
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